犬に噛まれた際に、特に注意しなければならない感染症として「破傷風」と「狂犬病」があります。これらの感染症は、重症化すると命に関わる危険性があるため、正しい知識を持ち、適切な対応をすることが重要です。まず、破傷風は、破傷風菌という細菌が傷口から体内に侵入することで発症します。破傷風菌は、土壌や動物の糞便中などに広く存在しており、犬の口の中にもいる可能性があります。破傷風菌が産生する毒素が神経系に作用し、筋肉のけいれんを引き起こします。初期症状としては、口が開きにくい、首筋が張る、顔がこわばるといったものがあり、進行すると全身の筋肉が硬直し、弓なりに反り返るようなけいれん(後弓反張)や、呼吸筋の麻痺による呼吸困難などを起こし、死に至ることもあります。破傷風の予防には、破傷風トキソイドワクチンが非常に有効です。日本では、DPT-IPV(四種混合)ワクチンやDT(二種混合)ワクチンに含まれており、定期接種が行われています。しかし、ワクチンの効果は時間とともに低下するため、最終接種から10年以上経過している場合などは、追加接種が推奨されます。犬に噛まれた場合は、傷の深さや汚染の程度、そして本人のワクチン接種歴などを考慮し、医師が必要と判断すれば、破傷風トキソイドの追加接種や、場合によっては抗破傷風人免疫グロブリンの投与が行われます。次に、狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染した動物(主に犬やコウモリなど)に噛まれたり、引っ掻かれたりすることで、唾液中のウイルスが傷口から体内に侵入して発症する人獣共通感染症です。発症すると、興奮、麻痺、錯乱といった神経症状が現れ、ほぼ100%死に至る非常に恐ろしい病気です。日本では、1957年以降、国内での犬からの感染による発生は報告されていませんが、海外では依然として多くの国で発生しており、海外渡航中に犬に噛まれた場合は、直ちに現地または帰国後に医療機関を受診し、狂犬病ワクチンの接種(暴露後接種)を受ける必要があります。
破傷風と狂犬病犬に噛まれた時の感染症リスク