高齢者にとって、咳が止まらないという症状は、若い世代以上に注意が必要なサインです。加齢に伴い、体の様々な機能が低下するため、肺炎にかかりやすく、また重症化しやすい傾向があるからです。高齢者の肺炎には、いくつかの特徴と注意点があります。まず、症状が典型的でないことがあります。若い人であれば、高熱や激しい咳、膿性の痰、胸の痛みといった分かりやすい症状が現れることが多いですが、高齢者の場合、これらの症状がはっきりしないことがあります。微熱、軽い咳、食欲不振、なんとなく元気がない、意識がぼんやりするといった、非特異的な症状しか現れないことも少なくありません。そのため、本人も周囲も肺炎と気づきにくく、診断や治療が遅れてしまう可能性があります。次に、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスクが高いことです。誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入り込み、それに含まれる細菌が肺で炎症を起こす病気です。高齢者は、飲み込む力(嚥下機能)や咳反射(異物を排出しようとする反射)が低下していることが多いため、誤嚥を起こしやすく、誤嚥性肺炎を発症しやすいのです。特に、脳梗塞の後遺症がある方や、寝たきりの方は注意が必要です。また、高齢者は複数の基礎疾患を抱えていることが多く、肺炎を合併すると、それらの基礎疾患が悪化したり、治療が複雑になったりする可能性があります。心不全や糖尿病、慢性呼吸器疾患などがある場合は、特に慎重な管理が必要です。さらに、肺炎は高齢者のQOL(生活の質)を著しく低下させ、寝たきりや認知症の進行を招くきっかけとなることもあります。高齢者の咳が止まらない場合は、「年のせいだろう」「ただの風邪だろう」と軽視せず、できるだけ早く医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが非常に重要です。また、日頃から肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種、口腔ケアの徹底、誤嚥予防のための食事形態の工夫などを心がけることも大切です。