耳垢は、多くの人が取り除くべき不要なものと考えていますが、実は耳の健康を守る上で重要な役割を担っています。耳の仕組みを理解することで、なぜ耳垢が自然なものとして存在し、無理に除去する必要がないのかが明らかになります。耳は、外耳、中耳、内耳の三つの部分に分かれており、耳垢が存在するのは外耳道と呼ばれる部分です。外耳道の内壁には、皮脂腺とアポクリン腺という二種類の腺があり、ここから分泌される油分や汗、さらに剥がれ落ちた古い皮膚の細胞やホコリなどが混ざり合って耳垢が形成されます。この耳垢は、単なる汚れではなく、外耳道を乾燥から守り、また外部からの細菌や真菌、小さな虫などの侵入を防ぐ天然のバリアとしての役割を果たしています。さらに、耳には非常に優れた自浄作用が備わっています。外耳道の皮膚は、鼓膜から耳の入り口に向かってゆっくりと移動しており、この動きによって耳垢は自然と外へと押し出されていきます。例えるなら、ベルトコンベアのように耳垢を運び出すイメージです。そのため、特別な耳掃除をしなくても、ほとんどの耳垢は自然に排出されます。この自浄作用があるため、頻繁な耳かきはかえって耳の健康を損ねる原因となることがあります。綿棒などで耳の奥を掃除しようとすると、耳垢をさらに奥へ押し込んでしまい、耳垢が固まって詰まる「耳垢栓塞」を引き起こす可能性があります。耳垢栓塞は、難聴や耳の閉塞感、耳鳴りなどの症状をもたらすことがあります。また、耳の奥を頻繁に刺激することで、外耳道の繊細な皮膚を傷つけ、炎症や感染症の原因となるリスクも高まります。適切な耳掃除は、耳の入り口に見えている耳垢を、清潔なタオルや柔らかい綿棒で優しく拭き取る程度にとどめることです。月に一度程度の頻度で十分であり、入浴後など耳垢が柔らかくなっている時に行うと良いでしょう。もし耳の奥に違和感がある場合や、耳垢が固まって取れない場合は、自己判断せずに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。専門医による診断と処置が、耳の健康を守る上で最も確実な方法です。