「耳かきをしないと、耳垢がどんどん溜まって耳が詰まってしまうのでは?」と心配になる方もいるかもしれません。しかし、私たちの耳には、耳垢を自然に外へと排出する「自浄作用」という素晴らしいメカニズムが備わっています。このメカニズムを理解すると、頻繁な耳かきの必要性があまりないことが分かります。外耳道(耳の穴から鼓膜までの道)の皮膚は、実は常に新しいものに入れ替わっており、その動きは鼓膜の方から耳の入り口に向かって、まるでベルトコンベアのようにゆっくりと移動しています。この皮膚の移動に伴って、古くなった皮膚の細胞やホコリ、外耳道からの分泌物などが混ざり合った耳垢も、自然と外耳道の奥から入り口付近へと運ばれていくのです。そして、最終的には、乾燥して自然に剥がれ落ちたり、あくびや食事の際の咀嚼運動、会話などで顎が動くことによって、耳の外へと排出されます。この自浄作用は、多くの人において正常に機能しており、特別なことをしなくても、耳の中は清潔に保たれるようになっています。そのため、健康な耳であれば、基本的に耳かきで奥まで掃除する必要はありません。むしろ、耳かきをすることで、この自浄作用を妨げてしまう可能性があります。例えば、耳かきで耳垢を奥に押し込んでしまうと、自然排出が困難になり、耳垢が固まってしまう「耳垢栓塞」を引き起こすことがあります。また、外耳道の皮膚を傷つけてしまうと、炎症が起きたり、皮膚のターンオーバーが乱れたりして、自浄作用がうまく働かなくなることもあります。もちろん、中には耳垢が溜まりやすい体質の方や、高齢で自浄作用が弱まっている方もいます。そのような場合は、定期的に耳鼻咽喉科で耳垢を除去してもらうのが良いでしょう。しかし、多くの人にとっては、「耳かきをしない」という選択も、耳の健康を守るための一つの方法なのです。
耳かきしないとどうなる?自然排出のメカニズム